大阪地方裁判所 昭和43年(わ)1553号 判決
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〔判決理由〕(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、職業安定法六三条二号にいう「職業紹介」は職業紹介者において「求人及び求職の申込を受け」たことを前提要件とするが、本件は、いずれも被告人において女性の方から求職の申込を受け、たまたま知つていた店「志津可」に電話したり、赴いたりして求職の取次をし、右店主においてこれを承諾したにすぎないのであつて、被告人において右店主から「求人の申込」を受けた事実はないから、この点において構成要件事実が欠けており、無罪であると主張する。
よつて判断を加えると、職業安定法にいう職業紹介とは、同法五条において、求人及び求職の申込を受け、求人者と求職者間における雇用関係の成立をあつせんすることをいうと定義されていて、弁護人主張のように、求人及び求職双方の申込のあることが要件とされている。考えてみると、あつ旋行為さえあれば雇用関係の成立を要しないという解釈(昭和三五、四、二六、第三小、集、一四、六、七六八)のもとにおいては、求人及び求職双方の申込が必要であるという弁護人の主張には職業紹介行為の範囲を不当に拡張しないという意味で正当なものを含んでいる。しかしながら、求人申込が求職申込に先行することを要しないし、あつ旋者のあつ旋行為に先行して、これと無関係に存在することを要するものでもない。求職の申込を受けたあつ旋者が、使用者側に人を雇い入れる意思はないかと打診した際に、その意思とあつ旋方を依頼する意思のあることを言葉で明確に表明した場合はもとより、言葉では明確に表明していなくとも、あつ旋に応ずることを態度で示した場合にも、求人の申込があつたものと解するのが相当である。
前掲各証拠を総合すると、判示(一)(三)については、いずれも被告人は中村三代子、川東日出子から売春婦でもよいから働き先を世話して欲しいと申込を受け、料理店「志津可」の売春婦として雇入れてもらうようあつ旋することとし、予め同店経営者平木津留子に電話して女を雇う意向があるかどうかを尋ね、同女より「一度店へ女を連れて来てくれ」という返事を得た上で、三代子や日出子を同店に連れていき、そこで平木と交渉した結果、同女において三代子や日出子を売春婦として雇うに至つたものであること、判示(二)の事実については、緒方ミエ子から前同様の申込を受け、いきなり同女を同店に連れていき、平木に対しミエ子を紹介しその雇用方を依頼したところ、平木において働いてもらつてもええけど辛抱できるだろうかと答えたので被告人において雇つて貰えるよう口をきいた結果ミエ子を売春婦として雇うに至つたものであることを認めることができる。
右のような事実関係において、判示(一)、(三)の事実では、被告人が平木に電話した際同女が「一度店へ女を連れて来てくれ」という返事をしたとき、判示(二)の事実では、同女が辛抱できたら働いて貰つてもよいという返事をしたとき、同女が女を雇用する意思があり、そのあつ旋方を被告人に依頼するという意思のあることを表明したものとみられるから、このとき被告人は「求人の申込」を受けたものということができる。従つて、求人の申込を受けた事実がないから職業紹介をしたとはいえないという弁護人の主張は採用できない。(松浦秀寿 黒田直行 中根勝士)